PRラーメン業界に“スマート革命”を起こした クックピット株式会社の「味分けシステム」

2016年09月09日更新

この記事のライター

東京経済大学コミュニケーション学部卒業後、地域ミニコミ紙の編集記者、広告代理店を経てフリーライターへ。2016年4月に個人事務所「S1ライティングオフィス」を開設。元高校球児。野球をはじめとするスポーツ、カルチャー、ビジネス、雑学などを執筆...

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2006年に、ラーメン店の独立支援を主な業務とするクックピット株式会社を立ち上げた本間義広代表取締役。同氏がラーメン業界に飛び込むきっかけとなったのは、東京・西麻布にある博多ラーメン「赤のれん」との出会いからだ。客としてフラッと入った店で出されたラーメンは、なんとも上品でコクがある。「これは生原料を使っているに違いないが、その先が分からない」。

専門学校の調理師科を卒業後、住込みで板前の丁稚を7年間経験するなど約20年近く飲食業界に身を置いていた同氏の、料理人としての探究心に火が点いた。すぐに勤めていた会社を辞め、時給800円の洗い場のアルバイトからスタートした。

あの味で、他店舗展開計画、始動

「どうしてもあの味が知りたかった」という本間社長。しかし雇われてから2ヶ月が過ぎる頃、ふとした時に店内を見渡すと、中にいるのは芸能人や小金持ちそうなサラリーマンばかり。「自分が感動したこの味を、家にいる奥さんや子どもたちにも知ってもらいたい」。その思いから、あの味で多店鋪展開計画が走り出した。

洗い場のアルバイトから1年ほど経った1994年、株式会社福のれんを設立し取締役に就任すると、まずは日本橋に1号店を出店。その後、12年間で18店鋪の拡大に成功した。

 

■「寝ないでスープを仕込むラーメン屋」に違和感

「無我夢中の12年間で失敗もたくさん経験した。その中でスープ作りの大変さ、ラーメン店主の苦労を目の当たりにした」と同氏は語る。当時、西麻布の店でも生原料の入手は困難だった。小さな店鋪でも1日100kgの原料を使用する。1tのスープを作るのには、1tのガラが必要なのだ。さらに、濃厚で良質なスープを仕込むには8時間かかる。午前11時オープンの店だと夜中の3時から仕込みを始める。午後10時に店を閉めたとして、後片付けに1時間かかると寝る時間も含め4時間。つまり20時間労働だ。

この労働環境をどうにか改善させたい。ラーメンを作る人が幸せでなければ、そのラーメンを食べた人も幸せにできないのではないか。それが同氏の思いだった。これが、いまやクックピットの代名詞ともいえる「味分けシステム」の原点である。

 

■クオリティを保ち、店に素早くスープを運ぶには

2006年、クックピットを設立した本間社長は原料の鮮度を重要視し、スープにおける最大のテーマは「甘味」であることに着目した。原料の鮮度が良くなければ甘味のある味は出せない。そこで家畜をエサから管理し、スープを茹でる釜を屠場の隣に造る。さらに甘味の素であるタンパク質は、アミノ酸ではなくペプタイドを追求した。これにより、物流を確保し、醤油や味噌といった日本の発酵調味料に合う唯一無二の「ストレートスープ」が完成した。

 

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「ストレートスープ」はもともと煮込んだ状態で運ばれてくるので、仕込み時間が圧倒的に短縮される。さらに人件費や光熱費、ゴミの削減も可能にした。何より味が安定し、クセのないスープだからこそ、店主が思いのままにカスタマイズできるのだ。この仕組みが、寝る間も惜しんでスープを仕込み、家族との時間を顧みずに働くラーメン屋を手助けする、「のれん分け」ならぬ「味分け」となった。

 

■“ホワイトブランド”の確立と今後の展望

クックピットのストレートスープを元に、ラーメン屋の店主が自身のインスピレーションを融合させ、新しいブランドを創り上げていく。「このスープで演じられる人は勝つ」と本間社長は言う。同氏が感動した味のノウハウが詰まったストレートスープが“ホワイトブランド”となって、より多くの人が味わえるようになった。また、店主のワーク・ライフ・バランスも確保され、彼らが店舗を拡大すればその分スープの発注も増えて行く。こうしてクックピットは利益を得る。このビジネスモデルについて本間社長は「職人ではなく、経営者を支援するという感覚。BtoBの営業だが、クチコミで広まっていった。特に味分けシステムの利点から、商業施設に店舗を構えるラーメン屋などから選ばれている」と話す。クックピットの直営店、「麺や福十八(東京都文京区本郷)」がプレゼンの場として活用されるところも大きな強み。ストレートスープを確かめに来るラーメン屋開業検討者に向けて、直接スープを味わってもらいながらパートナーシップを築くのだ。

 

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今後の展望は、一般消費者への直売と海外進出だという。一般消費者へはストレートスープはもちろん、そのノウハウを活かした調味料などを検討している。風味を損なわないジュール過熱装置を用いて、ダメージを軽減した状態で提供するという構想がある。課題はネット通販か、スーパーなどの一般チャネルか。海外進出については、ASEAN地域に目処をつけた。特に、イスラム教徒は宗教上の理由で豚を食べないため、鶏の需要が高い。現在、タイにJAKIM(マレーシア政府ハラール認証機関)承認の工場を置き、鶏の安定した生産と流通を確保する計画を進めている。

■一つ一つ、課題をクリアにしていく「楽しさ」

「リスクを怖れない性格と、根拠のない自信でやってきた」と、赤のれんとの出会いからこれまでを振り返った本間社長。印象的だったのは「苦労したとは感じなかった。むしろ、やりたい気持ちが勝っていて毎日楽しかった」という言葉。20年近く飲食業のキャリアを積み、30代半ば、家庭もある中でラーメン屋のアルバイトから始めた。その時の苦悩や不安を感じないほど、充実感と期待感に溢れていたわけだ。そして、そこで自身が見つけた感動の味を広めることに成功し、労働環境の改善を具現化させた。昨今のラーメンブーム。消費者の舌はますます肥えて、厳しい採点が下される世の中である。「うち(麺や福十八)は業務用スープだからと、ラーメンマニアには敬遠されるんだよ」と頭をかく本間社長。そのラーメンマニアが、行列のできる人気ラーメン店に行き「絶品のスープ」とネットで称賛する。そのスープのベースが、クックピットの「ストレートスープ」とも知らずに。
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